ふだんの何気ない話

ふだんの何気ない話

とある日の野うさぎの行動記録、及び恋人との逢瀬。

  寝不足のまま、朝を迎えた。昨日はとんでもない一日だったと、改めて思った。

私は少し変わっている。どう変わっているのかというと、簡単に言えば、人一倍恐怖や不安が強い。野うさぎのようだと、よく恋人に揶揄される。
まず第一に、人混みが苦手。誰だって、人混みは嫌だろうが私はその数倍苦手らしい。第二に、人に気を使いすぎる。これがかなり厄介な性分で、親だろうが弟だろうが気を使う。第三に、とんでもなく泣き虫であること。非常に涙もろく、けれど人前では決して泣かない意地っ張りでもある。

昨日、私は恋人と久しぶりに会った。遠距離のため(相手は大した距離だとは思っていないらしいが、車で片道4時間は大層な距離だと私は思う)、また、お互いの休みがなかなか合わないため、合う頻度としては月2回程である。久々に顔を見て、少しやつれたね、とお互い苦笑した。

さて変わり者の私と、その変わり者を愛してくれている変わり者が、共に行ける場所は少ない。なんせ野うさぎだ、普通のデートはできない。だがこの時の私には少し自信があった。久々の会合で少し調子に乗っていたとも言える。

近くのファッションモールに行こう、と提案した。

恋人は驚いていたがそれもすぐ笑顔に変わった。私の意見をなにより尊重してくれる恋人だから、きっと心配しながらも、私に勇気や覚悟があれば望み通りにしてやりたいと思ってくれたのだろう。本当の優しさとはこういう事を言うのだと、ふと思った。

いざ着くと、平日の夕方という時間も相まってか、恐れていた程の人混みではなかった。私はさらに調子に乗って、某ファストファッションのアパレルショップでお互いに似合う服を見繕うのはどうだろうかとさらに提案してみた。返事はもちろんイエス。

時間にして1時間。お互いあっちに行ったりこっちに行ったり、やれ私の選ぶ服は地味だの派手だの個性的すぎるだのと言われつつも、なんとか似合う服を見つけ、試着し、思いのほか気に入ってもらえたのでそのまま購入する事に。なかなか自由に外を出歩けない私からしてみれば楽しすぎるひと時だった。私はこの時点で全てにおいて満足していた。

問題はこれからだ。恋人はお腹が減ったらしく、レストラン街へ出た。時刻は大体6時前後。混み合う時間帯だ。私は不安が押し寄せてくるのを必死にこらえながら、あなたの好きなように、と聞こえは良いがその実相手に丸投げな一言をいい、お手洗いへ向かった。息苦しかった。数分、怪しまれない程度の時間、個室でうずくまり、息を整える。大丈夫、大丈夫。何度も言い聞かせた。

このあとの事は、実はあまり覚えていないのが正直なところだ。あとから聞いて分かった事だが、私たちは空いていそうなレストランに入り、注文し、食事が進まない私になにかを察したのか、20分程度で出てしまったらしい。

結局この日のデートは予定より早く切り上げて終わってしまった。久々に会えたのに、なかなか恋人らしいことをしてあげられない。

これからどれほどの時間をかけて私は不安と恐怖に苛まれることなく過ごせるのだろうかと、帰宅してずっと考えてしまった。雑踏への恐怖、不意に襲う不安、削られて行く体力。膝を抱えて、私はそんなことを思っては泣き、そして眠れずに朝を迎えた。

きっと恋人は、そんな私の姿を心配には思えど不憫には思わないであろうということだけが唯一の救いだ。